『Hogwarts Legacy』がオープンワールドである必要はあったのか?【考察】

考察

私が初めて『Hogwarts Legacy』の世界に足を踏み入れた時、その世界のあり様に感動したものです。

スクリーン越しに見ているだけだったホグワーツ城の中を歩き回ることができ、城外へ出ると一面に広がる大自然に息をのみました。
ゲーム序盤、世界の姿が明らかになっていない頃、この先に待ち受ける冒険やホグワーツ魔法魔術学校での暮らしに対しての期待は大きなものでした。

しかし本作の世界を探索するに従って違和感を抱くようになります。
それはついにゲームのストーリーをクリアするまで晴れることがありませんでした。

今回は私が『Hogwarts Legacy』の世界を探索中に抱いた違和感を明らかにし
それを通じて本作がオープンワールドである必要があったのかを考察します。

一部ネタバレを含みます

探索中の違和感

先ほど述べた通り、私は『Hogwarts Legacy』の世界を探索中に漠然とした違和感を抱いていました。
ゲームをプレイ中は言語化できないモヤモヤした抽象的なものでしたが、他のオープンワールドゲーム、特に『ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド』や『ELDEN RING』では感じなかったものです。

同じく本作を購入した知人と、本作の探索が魅力に欠けること話し合った結果、ようやくこの違和感を具体化することができたので述べていきます。
これはあくまで私個人の感想であることをご注意ください。

制限付きの探索

『Hogwarts Legacy』と『ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド』にはいくつかの共通点があります。
しかし不運なことに、それは好ましいものではありませんでした

『Hogwarts Legacy』の探索のご褒美である収集要素として、”マーリンの試練”があります。
これは『ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド』においての”コログ探し”であると言えます。

Hogwarts Legacy/2023
マーリンの試練の1つ

これら2つの要素は魔法や道具などを用いて簡単なパズルを解くことだけでなく、クリアした数に応じてインベントリの容量が増えるところまで共通しています
違うのはパズルを解く(コログの実を集める)ことになった経緯と、『Hogwarts Legacy』ではパズルに挑戦するためにわざわざコストを支払う必要があることのみです。

マーリンの試練の報酬、インベントリ拡張

しかしながら本作と『ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド』におけるインベントリ拡張の持つ意味は微妙に異なります。
『ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド』で拡張されるのは、それぞれ耐久力を持っており使い続ければ壊れて無くなってしまう、武器や盾の所持数です。

一方『Hogwarts Legacy』は武器ではなく、帽子やローブなどの身に着ける装備品のインベントリが拡張されますが、この装備品には耐久力は存在せずインベントリに残り続けます
そのため探索を続けていれば頻繁にインベントリが満たされ、新たに装備品を獲得するにはすでに持っているものをその場で破棄して空きを作るか、商人がいる集落に戻って売却する必要があります。

頻繁に満たされる装備スロット

探索してようやく手に入れた装備品を棄てるか、せっかく没頭していた探索を中断して商人のもとへ戻るかという、プレイヤーにとって、得のない不利な2択を頻繁に仕掛けられるこのインベントリ制限はプレイヤーを自由に探索させるというオープンワールドの象徴的な遊びと相反するものであるように感じられます。
ゲームシステムがプレイヤーの探索に夢中な状態に水を差してくることに他ならないわけですから。

加えて本作の装備品は、既に入手したことのあるものの中から、見た目を自由に変更可能であるため入手した装備の個性はそれほど尊重されることがなく、プレイヤーの興味はその装備がキャラクターに付与する追加の防御力やパワーアップのみに集中するため、最強装備を機械的に身に着けるだけで自らの選択の余地はほとんどありません。
したがってキャラクターが現在装備しているものより防御力が高いものが手に入ればその場ですぐに着替えて見た目を変更するだけなので、実際に必要になるインベントリの数は多くはありません

そのため『ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド』でインベントリを拡張することは、戦闘中に武器や防具を使い果たして窮地に陥るリスクを管理したり、状況によってさまざまな種類を使い分ける余地を増やす楽しみがあるのに対し、『Hogwarts Legacy』ではせいぜい探索を中断して商人に装備を売却し小銭に替えるまでにかかる時間が少し延びるだけのように感じられます。

マーリンの試練が収集要素の一部に過ぎないことを加味しても、探索することの報酬が探索の中断までの時間制限の延長だとしたら、そもそも探索することへの興味をそがれてしまうのも当然のことではないでしょうか。

期待はずれな報酬

前述のインベントリ制限を無駄にしている要素であり、探索のやる気をそいでしまう要素として、得られる報酬が十分でないように感じることが挙げられます。

本作は装備品にそれぞれレアリティが設定されており、レアリティに比例して装備品の防御力などの性能が高く設定されています。
したがって装備の見た目は同じでもレアリティやステータスが違うだけの別アイテムがいくつも生成され、宝箱に詰められてフィールドに大量に散りばめられています。
加えて見た目は既に入手済みの装備の中から自由に変更できるので、最初の1つ以外は見た目も重要ではありません

数字が違うだけの同名アイテム

メインクエストの目的地に移動中、少なからず興味を惹かれた洞窟に近づき蜘蛛の巣を払って恐る恐る侵入し、壁の内側に隠された宝箱を発見して見つかったものが使いもしないコモンランクの装備品だったとき、正直に申し上げて、私は落胆を隠せませんでした。

もちろん宝箱から見つかるものがすべてこのような売って小銭に替えるくらいにしか用途のない洋服だけではありません。
他にも宝箱からはプレイヤーが飾り付け可能な自分だけの部屋で使用可能な固有の家具や、装備品に付与できるパワーアップなどが見つかります。これらは探索の報酬として適切であると感じます。

ですが、探索することで得られる報酬の質が極端に不安定であることでプレイヤーは探索への興味を失ってしまいかねません。

驚きのない世界

『Hogwarts Legacy』の世界を実際に探索することは「ハリー・ポッターの世界を探索する」という言葉で想像されるものの期待を超えることができなかったように思います。

ホグワーツ城の外の世界を探索していて見つかるものの多くは新鮮味を失った形式的な収集要素や報酬まで他の作品に似たパズルバリエーションの少ない敵などです。
これらの要素はハリー・ポッターシリーズの世界が舞台でなくても体験可能であるように感じ、せっかくのユニークな世界を活かしきれていません。

しかし魔法生物関連についてはその限りではありません。
金品を集めることが趣味の小さなコソ泥、ニフラーとその生息地をフィールド内に見つけた時は確かに驚きがありました。
彼らは自分たちの住処に人間から盗んできた金貨や貴金属、さらにはスニッチまでもを集めて保管しており、この要素は彼らの習性を教室の外で学ぶ貴重な機会で、彼らが実際にこの世界に存在し生活しているのだと思わせるものでした。

白でハイライトされているニフラーとその巣

そしてニフラーの住処の目と鼻の先に密猟者のキャンプが存在し次の密猟の計画を話し合っていたので義憤に駆られた私は思わず密猟者たちを古代魔術で一網打尽にしていました。

このように『Hogwarts Legacy』の世界独特のストーリーを想像できる、探索しがいのあるコンテンツも見られただけにもったいないと思わざるを得ません。
本作のオープンワールドに必要なのはその世界固有の要素を活かしたストーリーや遊びであり、コンテンツをかさ増しするためのありきたりな収集要素ではありません。

箒ほうきでの飛行と探索のミスマッチ

『Hogwarts Legacy』の象徴的な遊びの1つに、空飛ぶ箒が挙げられます。
箒での飛行には独自の操作方が必要で最初に習ったときは操縦に戸惑うかもしれませんが、慣れれば非常に快適な移動を可能にしてくれます。

この要素はプレイヤーとキャラクターの体験がシンクロするようで非常に満足しています。
始めはおぼつかなかった箒さばきですが、プレイヤーが操作に慣れるに従って上達していく様はプレイヤーである自分と操作しているキャラクターの成長を同時に感じられ、ゲームへの没入感を増してくれたように感じています。

しかしながらオープンワールドを探索するという遊びと、箒での高速飛行はミスマッチである印象を受けます。

少なくとも私のやり方では、探索は目的地までの道のりを歩きながら周囲の様子を注意深く観察し、興味を惹かれる自然物や建物などが見つかればそちらへ寄り道するという方法で行います。
ですが箒の直感的な遊び方はフィールドの上空を高速で飛び回るというもので、この方法では道中の収集要素や敵などを完全にスキップできてしまいます。

加えて飛行中に集落などを見つけてそこへ着陸することは、地上を歩いて探索中に集落へ立ち寄るのとは微妙に感じ方が違い、飛行中は遊びを中断させられているようで面倒に感じられます。
地上を歩くことが探索という遊びに結びついている一方で、箒での飛行は探索より移動としての要素が強く表れているのではないでしょうか。

もしプレイヤーが、徒歩での移動が箒での飛行と比べて魅力に欠けていると感じてしまった場合、オープンワールドが発見可能な要素の詰まった広大なフィールドではなく、次のクエストまでの目的地が遠いだけの無駄な移動時間と誤解され、せっかく実装した空飛ぶ箒も少し時間がかかるファストトラベルとしか扱われない可能性すら生じてしまいます。

従って『Hogwarts Legacy』には探索と飛行の両方を尊重できるようなバランス調整がなされておらず、どちらかがおろそかになってしまう印象を受けました。

進行を遅らせるだけの探索

”できるだけすぐ”

『Hogwarts Legacy』に限ったことではありませんが、ストーリーを伴うクエストと、フィールドの自由な探索は融合が難しいと考えています。
なぜならメインクエストのイベントとイベントの間の移動中にフィールドを探索したりパワーアップを伴わないサブクエストを行うことは、結局のところメインクエストの進行を遅らせているに過ぎないと感じられるからです。
この問題をうまく解消した例は『ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド』や『ELDEN RING』などですが、他の多くのオープンワールド作品は同じ問題を抱えています。

作品の世界に没入すればするほど、プレイヤーはゲームが無視している要素までも気にかけるようになります。
代表的な要素として挙げられるのが時間です。

これは『龍が如くシリーズ』をプレイ中にも顕著に表れた問題で、私のような感情的なプレイヤーは特に、ストーリーの雰囲気に反する行動をとりづらいと感じることが多いです。

例を挙げるとメインクエストの流れがこうだとします。
クエスト1「子供が連れ去られたから協力を仰ぐ」
クエスト2「手掛かりを見つけたので怖いおじさんのところへ質問をしに行く」
クエスト3「下っ端は何も知らないので彼らの上司を問い詰めるために情報を集める」
クエスト4「上司の場所を特定したので殴りこみに行く」
私はこれらのクエスト間に自由行動の時間が与えられても、連れ去られた子供が心配でキャバクラやバッティングセンターなどで遊ぶ気にはなれず、攻略に必要なアイテムや装備を整えたらすぐにメインクエストを追ってしまいます

龍が如く7 光と闇の行方 インターナショナル/2020

ゲーム内の時間は、プレイヤーが意図的にメインクエストを進行させるための行動をとるまで、いつまでも止まったままなので子供が捕まったからといって全く急ぐ必要はないのですが、ストーリーに入り込むほどそれに従って急いだほうが感情的に違和感がない状態でプレイすることができるので、次第に探索要素がおろそかになっていきます。

話を『Hogwarts Legacy』に戻すと、本作も『龍が如く』やそのほかの多くのゲームと同様に、ストーリーの緊張感と自由な探索の調和がとれていないように感じられます。
メインクエストでランロクの脅威がその危険性と緊急性を増す中、新たな試練の地の周辺で無意味にパズルを解いたり、箒のレースに興じることには違和感があります。

一方で、新たな魔法を覚えられる課題や人間関係クエストに関しては、「ランロクの脅威に対抗する力をつけるため」という建前が利用可能なので私のような感情的なプレイヤーにも違和感なく受け入れられるものとなっています。

もし、『Hogwarts Legacy』のストーリーを『ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド』風に改造し
「来るランロクの脅威に備えてあらゆる手段で力を蓄え、戦いに備えよ」とした場合、プレイヤーの探索の動機もシンプルに力をつけるためとなるため感情的な違和感は解消されます。

ですが映画的なストーリー進行が特徴的なゲームの場合、オープンワールドの探索がストーリー進行の妨げになってしまいかねず、本作でもそういった問題点は見られました。

倫理観に反する窃盗行為

他人の家にある箱

これも先ほどと同じく、私が感情的にゲームをプレイするあまり生じてしまう問題点です。
鍵開けの呪文で侵入できる場所の多くはこの世界に住む誰かが所有する建物です。
探索の報酬を与えるためには仕方ないのかもしれませんが、他人の住居にアイテムを配置されると感情的に持っていき難いと思わざるをえません。

施錠されている扉をわざわざ魔法でこじ開けて侵入し、他人の所有物を我が物顔で強奪していく様は、ゲームの中とはいえ、違和感まる出しの奇行としか思えませんでした。
この要素は本作を悪い意味でゲームっぽく見せてしまうものであり、ハリー・ポッターシリーズの世界の再現という点だけでなく、世界の実在感という点でもマイナス部分であると感じます。

自分の所有物を目の前で盗られているのに何の反応も返さない住人には、世界を本物に見せるNPCとしての役割を果たせていないばかりか、これはゲームに過ぎないのだという現実を突きつけられたような印象すら受けます。
果たして本作にはそうまでして探索させる必要があるのでしょうか。

『ハリー・ポッター』で『いつものゲーム』がやりたいわけではない

これは私個人の感想ですが、『Hogwarts Legacy』は私の求めていたハリー・ポッターシリーズ原作のゲーム体験とは少し違っていました。
これは自分が好きなゲームに近づけろ、という主張ではなく『Hogwarts Legacy』でしか味わえない体験をさせるためにはこうしたほうがいいという提案として捉えて頂きたいです。
しかしながら、どうしても熱くなって気付かないうちに大好きな『ペルソナ5』の要素が多く含まれているかもしれませんので、見つけたらご指摘ください。直ちに修正します。

私は本作の発売前、ハリー・ポッターシリーズの世界設定、舞台をより深くリアルに味わうことのできる遊びを期待していました。
ところが新鮮に感じたのは魔法や世界だけで、ゲームの部分は特にユニークさを感じずどこかでやったことのある所謂いわゆる洋ゲーの体験と似ていました。

私が思うにパズルを解いたり戦うだけがハリー・ポッターの世界のすべてでは無いはずです。
所属している寮の仲間との人間関係や個性的な先生たちによる授業、ライバル的存在としのぎを削ったりやホグワーツならではの学校行事に参加することなど、『Hogwarts Legacy』でやりたかったことはたくさんあります。

魔法史の授業

せっかく他にない魅力を持つ学校、唯一無二のホグワーツ魔法魔術学校に在籍しているのだから、そこでしかできない遊びを用意できればきっと特別な体験になったはず。
個人的にはクィディッチは中止でもいいのでもっと授業で世界を構成する要素について学んでみたかった。もし毎回の授業で新しい魔法を覚えられなくてもです。
ただその場合、ハリー・ポッターシリーズ原作に造詣が深いプレイヤーが、既に知っていることを長々と説明されることになるのであまり良いアイデアではないかもしれませんが。

私にはPortkey Games内で行われた会議や開発中の状況はわかりませんが
もしゲームのフィールドをオープンワールドにすることで、予算や納期などの条件が原因でホグワーツやホグズミード内の遊びをカットせざるを得ない状況だとしたら、取ってつけたようなパズルをフィールドに散らかし、他の売れているゲームに似せてまでオープンワールドにこだわる必要はないのではないでしょうか。

注文できないバタービール

結論

最後に『Hogwarts Legacy』がオープンワールドである必要性について私の意見を述べさせていただきます。

私は『Hogwarts Legacy』は必ずしもオープンワールドである必要はなかったと考えています。
なぜならオープンワールドのゲーム体験は人によって満足度が大きく変わると思うからです。

オープンワールドの特徴としてプレイヤーが自由に世界を探索できる点が挙げられます。
しかし、これは想像ですが、メーカーにとってオープンワールドはプレイヤーがどの程度どのように探索するか想像しにくく、全体の30%探索する人、50%、100%探索する人すべてに、作品の値段に見合った満足感を提供する必要があるため品質の追及が難しいと考えています。

加えて本作はハードコアゲーマーだけでなく、ゲームを普段プレイしないハリー・ポッターシリーズ原作ファンも楽しめるように設計されているように感じます。これは戦闘が簡単で、マーカーなどの色に対応したボタンを押すだけで敵の攻撃を回避したり防御を突破できることなどからそう推察できます。

オープンワールドの探索はクエストなどの誘導がなく自発的に興味の対象を探すという遊びですが、ゲームビギナーでそれができる人は多くないと思います。
突然広い世界に放り出されて取れる選択肢の多さに圧倒されてしまってもおかしくありません。
探索の要素を取り入れるなら探索可能範囲を制限することでビギナーが集中する対象を定めやすくして、その分コンテンツの密度と質を高めればコア層のプレイヤーの需要も満たすことができるのではないでしょうか。

私は、ビギナー向けに遊びやすくするという点においても、もっとゲーム側が誘導しやすい遊びをホグワーツやホグズミード内に実装して学校生活や人間関係、世界設定固有の遊びの要素を充実させた方がよかったのではないかと考えます。
ハリー・ポッターシリーズ原作小説や映画の楽しみ方を知っている方なら無理にマップを広げてパズルと解かせなくても、登場人物たちのドラマを楽しんでくれるはずです。

終わりに

こんにちは、研究くんです。
約8000文字の長い長い記事を読んでいただき誠にありがとうございます。お疲れでしょう。

他の人のレビューを読む前に自分のレビューを書いておかないと意見が歪むと思って急いで書き残しておきましたが、自分が思っていた以上に『Hogwarts Legacy』に対して疑問を持っていたようで自分に驚きました。

グラフィックが良かっただけに実際の探索部分のクオリティがそちらに追いついていないことがどうしても気になってしまいますね。

もし次回作があるのだとしたら、ホグワーツ魔法魔術学校での生活をよりリアルに感じられるようなものを期待したいところです。

といったところで今回はここまで。
ご覧いただきありがとうございます。

愛をこめて。

煙突飛行粉の炎より。

オープンワールドの楽しみ方の記事もよろしくお願いいたします。

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